認知症とは

脳の神経細胞が何らかの原因で減少していく(脳の神経変性疾患)、あるいは脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)をきっかけとして、脳の機能低下がみられ、それによって日常生活に支障をきたした状態を認知症と呼びます。認知症にはアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症など、いくつか種類がありますが、厳密な鑑別診断は困難なことも多いです。

認知症を発症すると、記憶障害、見当識障害(時間や場所等が認識できなくなる)、理解・判断力の低下、実行力障害(計画を立てて、順序よく物事を行う)などの症状(中核症状)が現れ、さらにうつ状態、徘徊、妄想、暴言・暴力、幻覚、失禁・不潔行為などの症状(周辺症状、行動・心理症状 BPSD: Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)もみられることがあります。

なお、正常範囲と認知症の狭間のグレーゾーンの状態として、「軽度認知障害」があります。これは、ご本人やご家族が、以前と比べて認知機能の低下を感じつつも、日常生活に支障をきたすほどではない状態を指します。しかし、日常生活に支障をきたさないながらも、以前と同じことをこなすにも、より大きな労力を要するようになっています。

もの忘れとの違い

認知症は、年齢が上がると共に有病率も上がっていきます。また加齢に応じて年相応のもの忘れもみられるようになります。認知症も初期症状でもの忘れが特徴としてみられるので、多くの方は不安になっていると思います。これを見分ける方法はひとつあります。認知症のもの忘れは、「体験したことそのもの」を忘れているということです。

例えば、朝ごはんのメニューが思い出せないだけでなく、食べたかどうかも忘れています。一方、単純なもの忘れは、体験の一部である朝ごはんを食べたことは覚えていて、メニューが思い出せない状態です。ただそれだけで判断できるものでもないので、以下の症状があれば一度当院をご受診ください。

  • 何度も同じことを話したり、聞いたりする
  • 約束をすっぽかしてしまう
  • 趣味や関心事に対して興味を示さなくなった
  • 些細なことでも良く怒る
  • 通い慣れている道なのに迷ってしまう
  • しまい忘れや置忘れが目立つようになった
  • 身だしなみを気にしなくなった
  • 自分でなくした物を盗まれたと思い、被害妄想的になっている など

認知症の検査

これまで身近に患者様に接してこられたご家族の意見、認知機能検査(HDS-R、MMSE等)、頭部CT、MRI、血液検査などを参考に、総合的に判断します。中には治療できるタイプの認知症もあるので、身体的検査は大切です。他院で血液検査や頭部画像検査(CT、MRI)を受けた方は、その結果をお持ちください(当院では頭部画像検査を行うことができないため、検査を受けることのできる医療機関を紹介させていただきます)。

認知症へのアプローチ

認知症は老化の一種であり、残念ながら治癒することはできません。薬物療法としては、脳内の神経伝達物質を増やす効果があるとされるコリンエステラーゼ阻害薬、神経細胞に対する過剰な刺激を和らげるNMDA受容体拮抗薬などが用いられますが、あくまで「認知症の進行を遅らせる」ためのもので、認知症を治癒するためのものではありません。また、薬には副作用もあるため、必ずしも最善の選択肢とは言えません。
認知症へのアプローチとして最も大切なことは、介護保険を申請し、デイサービスやショートステイなどの支援を導入することです。対人交流、運動、音楽活動などを体験する機会を積極的に設け、リハビリテーションを行うことで、認知機能低下の進行を遅らせる効果や、BPSDの軽減、改善を期待できます。
認知症の患者様は、記憶力や判断力が低下していたとしても、感情は活発に機能しています。ご家族が介護に疲れていたり、イライラしていたりすると、その感情は伝わってしまい、患者様も同様に疲れ、イライラし、お互いの感情が煮詰まり悪循環に陥ってしまいます。介護保険サービスを積極的に利用することによって、患者様だけでなく、ご家族の負担も軽減することが大切です。